






辰巳蒸留所オリジナルポストカード
「道がわからないなんて滑稽な話だ」と皆は言うけれど
ここでは気にすることないのです。
沢に溶けだす草の香に つられ誘われゆっくりと
苔踏み滑り おいでませ
不安なくらいでちょうど良い しげる木々たち差す光
光の筋のその先は きっと誰かの散歩道
そんなに先にゆかないで 言いたい気持ちもわかるけど
さま酔う気分もいいものさ 何も心配いらないよ
深い深い森の中
新緑きわまる谷沿いに そっと茂った草のつゆ
舌ですくって潤して 疲れた素足で濡れ石ふめば
あとはどうにかなるものさ
急いで登れば猿が飛び 真っ赤な顔してこう言うよ
「私の尻尾に掴まりなさい 木の枝つたってゆきましょう」
慌てて降りれば鹿が跳ね 角を突き出しこう言うよ
「私の背中にまたがれば 良いとこ連れてゆきますよ」
熊に出会ってたまげたら 話があるよときりだされ
「ちょっくら付き合い願います」
いいかい、よくよくお聞きなさい
皆には皆の道がある あなたもあなたの道がある
探そうなんて思うから 迷ったなんて思うのです
ゆめゆめ忘れてくれまいて
もとをたどれば皆同じ
ゆめゆめ忘れてくれまいて
みんなさま酔いこいってまった
語り:ひろみちる
水彩画:大坪千賀子
【ひろみちるのあとがき】
犬啼の深い谷で
迷い彷徨うこと自体が
本質なのではないだろうかと、感じました。
その孤独の中で見つけた喜びに
山々の動物達が集まって
今日も人知れず 深緑の谷奥で
草を食み 沢をすする様子は
まるでアブサンの香りに取り憑かれ
はからずも純度の高い世界と直結してしまった
幸福な人々なようだなと